技術レポートWHITE PAPER

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技術レポート

マイクロ波を用いた異物や空隙の非破壊検査技術

Nondestructive inspection technology for foreign substance and void using microwave

八光オートメーション株式会社 是枝 雄一

 

1.はじめに

  近年、各産業分野で「IoT(Internet of Things)」の活用に注目が集まっている。ドイツでは2011年に「Industry4.0」が提唱され、「生産効率」や「品質管理」においてパフォーマンス向上が期待されている。だが、実際には効果的な実用レベルには達していないのが現状である。海外では、導入実績が増えてきており、今後日本も導入の流れへと移行していく。
 IoT導入の際、一般に最初のフェーズとして「見える化」が避けては通れないステップとなる。あらゆるモノから収集したデータを集約・分析し、数値やグラフによって可視化する必要がある。検査・計測技術は、さまざまなモノの情報を数値化することができ、まさに「見える化」のコア技術の1つとなる存在である。事実、近年の検査技術の発展により、これまで人の感覚に頼ってきた官能検査を数値化することが出来つつある。
 今回、「見える化」の一端を担う検査・計測技術の1つである「マイクロ波を用いた検査技術」を紹介させていただく。また、弊社のマイクロ波検査装置、及び精度向上のための応用技術を紹介する。

 

2.マイクロ波を用いた検査技術

  マイクロ波は、一般に波長が1mmから1m( 周波数300GHzから300MHz )までの電磁波を指し、携帯電話などの無線機器や電子レンジでも使用されている。マイクロ波は、誘電率の違う境界面で一部は反射し、残りは透過及び物質(誘電体)に吸収される特性を持つ( 第1図 )。
境界面のマイクロ波

   第1図 境界面のマイクロ波

  この「反射」「透過」「吸収」の大きさは物質の誘電率や誘電正接によって決定される。この特性を利用することで、物質内部を非破壊・非接触で検査可能となる(なお、マイクロ波は金属内部へは透過することが出来ず全反射する)。
 単純な例を挙げると、検査対象内部に異物などが存在した場合、その境界面で一部が反射する。また残りの透過したマイクロ波は、異物の誘電率や誘電正接に応じて位相や振幅が変化する。この位相や振幅の変化から、物質内部の状態を検査することが出来る。マイクロ波のどの特性を利用するかは、検査対象に応じて適宜選定する必要がある。
 また振幅にはマイクロ波の強度、位相には時間(距離)情報が含まれており、時間領域へ変換(以後、タイムドメイン解析)することも可能である。タイムドメイン解析によって、異物からの反射波が受信アンテナに到達するまでの時間と、その強度を得ることが出来る。よって、検査対象の誘電率が既知であれば、マイクロ波の速度から内部の位置情報を得ることが出来る。
 このタイムドメイン解析と同様の結果を得ることが可能な技術としてFM-CWレーダが挙げられる。FM-CWレーダは現在広く普及しており、自動車等に搭載され利用されている。

 

3.マイクロ波非破壊検査装置 HMW-SD1000

  以下に、マイクロ波を用いた検査装置を1つ紹介させて頂く。

3.1 特徴

  本装置は、送受信アンテナを組み込んだアンテナモジュール、マイクロ波発生器と受信機が一体となった本体、データ解析用パソコンで構成されている。送信機からマイクロ波を検査対象に照射し、反射波または透過波の振幅と位相を計測する。計測した振幅と位相の結果をそのまま使用することも可能だが、前項で記述しているタイムドメイン解析により反射波の位置と強度に変換することもでき、異物や空隙の位置を把握することが可能となる。第2図は、本装置の標準のシステム構成である。
HMW-SD1000 システム構成

   第2図 HMW-SD1000 システム構成

 

3.2 仕様

スポットサイズ	:約34mm×25mm
検出最小サイズ	:Φ4mm、厚さ3mm(異物)
		        :Φ25mm、厚さ0.1mm(空隙)
検査対象   	:樹脂、セラミックス、GFRP、木材、ゴム等
定格入力   	:AC 100V、50W

3.3 計測事例

 第3図のような空隙(Φ25mm、厚さ0.1mm)を、本装置で計測した例を紹介する。
 50mmの位置に空隙を配置し、第3図の矢印方向に計測を実施した。
検査対象の断面模式図

   第3図 検査対象の断面模式図

 第4図に計測結果を示す。横軸を計測位置、縦軸を受信強度で表しており、空隙位置で受信強度が増加している。
空隙(Φ25mm)の計測例

   第4図 空隙(Φ25mm)の計測例

 

4.精度向上のための応用技術

 検出したい異物や空隙から近い位置に、他の境界面 (検査対象の表面や背面等) が存在すると、そこから不要な反射波が生じて計測したい反射波と干渉してしまう。その結果、異物や空隙からの反射波が不要な反射波の中に埋もれてしまい検出できない場合や、その位置を誤認識する場合がある。このような現象を改善するための応用技術をいくつか紹介する。

4.1 表面反射除去

 検査対象の表面付近に異物や空隙が存在すると、表面反射と干渉してしまう。このような場合、振幅と位相から解析的に表面反射を除去・低減することで、計測能力の改善が可能である。
 第5図は検査対象表面から約5mmの深さにある空隙を計測した結果である。横軸を検査対象の深さ方向、縦軸を反射波の受信強度で表しており、深さ0mmが検査対象表面となる。
 表面反射との干渉の影響で、空隙がある5mmの深さにピークを確認できない。
表面反射除去前

   第5図 表面反射除去前

 第6図は表面反射を除去した結果である。5mm付近にピークを確認できる。
表面反射除去後

   第6図 表面反射除去後

 第7図に空隙の深さを1mmから10mmまで1mmピッチで変えて計測した結果を示す。
 空隙の深さと、計測したピークの位置がよく一致していることが確認できる。
空隙の計測結果

   第7図 空隙の計測結果

 

4.2 偏波の利用

 検出したい異物からの反射波が小さく、且つ不要反射波が大きい場合、偏波を利用することでS/Nを向上することが出来る。
 ホーンアンテナは、送受信可能な電界方向が1方向に決まっており、光学における偏光板のような働きをする。送受信アンテナの電界方向が平行のとき最大、直行のとき最小の受信強度となる。
 この特性を利用し、送信アンテナと受信アンテナの偏波を第8図のように直行した構成で計測する。検査対象からの表面反射等は、送信アンテナと同じ電界方向になる。受信アンテナの電界方向は、送信アンテナの電界方向に対して直行になるよう設置しているため、表面反射等は受信しない。計測されるのは、検出したい異物等で生じる散乱波のみとなる。
ホーンアンテナ正面図

   第8図 ホーンアンテナ正面図

 

4.3 位相補正

 写真1に示すようなプローブアンテナやホーンアンテナのような開口面アンテナを使用する場合、周波数毎に位相の遅延が生じる。
プローブアンテナ(左)とホーンアンテナ(右)

写真1 プローブアンテナ(左)とホーンアンテナ(右)

 これは、導波管内においてマイクロ波の伝播速度が周波数に依存するためである。位相には時間情報が含まれているため、タイムドメイン解析において、時間軸方向にピークが広がり空間分解能が低下する。第9図に、ホーンアンテナで送信したマイクロ波をプローブアンテナで計測した際のピークを示す。
補正前のピーク

   第9図 補正前のピーク

 これは位相を補正するという簡易な対処方法で改善することが可能である。検査に使用する送受信アンテナに生じる位相遅延量をあらかじめ取得しておき、計測結果の位相遅延を補正するのである。第10図は位相補正後の結果である。ピークが鋭くなっていることが確認できる。半値幅で評価すると、位相補正前後で1/2.5に改善している。
補正後のピーク

   第10図 補正後のピーク

 位相補正により、時間分解能つまりは空間分解能を向上することができ、干渉を抑えることが可能となる。

 

5.おわりに

 今後IoTの普及にともない、検査・計測技術で得られる数値化されたデータの重要性はますます上がっていくことが予想される。
 弊社では、今回紹介したマイクロ波技術以外にも、光学や超音波などの検査・計測技術を応用した装置の開発に取り組んでいる。これらの検査・計測技術で、さまざまな現場での「見える化」実現に貢献していく。

 

筆者紹介
 氏名:是枝 雄一
 会社名:八光オートメーション株式会社
 部署名:開発部 開発課
 勤務先住所:811-2304
 福岡県糟屋郡大字仲原2753-5
 TEL:092-611-5762
 FAX:092-622-5272
 e-mail:koreeda@hacmat.co.jp